サエズリ図書館のワルツさん 1 (紅玉いづき/星海社FICTIONS)

しんどいことが多い一日だったけれど、少なくとも、最悪なんかじゃなかった。

最前線にて、第1話が無料公開されてますが、あれだけだといまいち世界観をつかめなくて困惑します。

さらっと読んだだけでは本が貴重になっているようにも思えるし、一方で小学生のころ先生に連れられて図書室にいったりだとか、私立の図書館があるということは、当然公立の図書館もあるんだろうし。。。

視覚補助スコープなるアイテムを装備したおじいさんも登場して、いまいちよくわからんというところ。

というわけで、本を買って読んでみたわけです。



世界観がかなりわかりにくかったんで、最初に書いときます。つまりはネタバレです。

この世界観、2011年の震災をかなり意識しているところが見受けられます。この世界においては、それは震災ではなく第3次世界大戦。エネルギー資源の枯渇がトリガーとなり、なぜか日本の都市が5つほど焼け野原になっているらしいです。その影響で、

・電力供給力が低下し、頻繁に停電が起こる。
・都市部(シティ)の近郊に住む魚はほとんど死滅した。鳥もまた、数種類を残して激減した。
・都市部の雨にぬれると健康被害につながる(都市部以外でも雨は有害であると考えられている)
・都市部は荒廃としており、子供が捨てられ、戦災孤児となっている。
・都市部に生まれた人には罹災証が交付され、住む場所と最低限の生活は保障される。

また、世界背景として

・極端に電子が進んでおり、電子書籍の席巻により紙媒体の書籍はほとんど絶版化し、紙の書籍自体が非常に価値を持っている。
・紙の書籍を貸し出す図書館、図書室も存在はしているが数は少なそう。また、文字を紙媒体で読むこと自体非常に稀有な行動である思われる。
・人体の電子化も進んでおり、視覚補助スコープや人間の脳に組み込める記憶回路(ネオメモリ)などが存在する。
・少子化が進んでいて、子供の数が少ない。
・紙の書籍に対して、好事家の贅沢だとする本嫌いが存在する。
・コンピュータよりも紙の書籍のほうが高くつく。

とりあえず、1巻を読んだ中で分かったことはこのくらいです。



色々言いたいことはあるんです。

電力供給力が低下して、頻繁に停電が起こるのに、人々の生活が電子化されすぎていること。戦前に極度の電子化が行われたのだとしても、そこから電子端末から紙への回帰がなぜ起こらなかったのか。

電極供給力が低下している原因もエネルギー資源の枯渇に由来しているんでしょうが、結局戦争をやっただけで、どのように問題解決が図られたのかがまったくわかりません。

第1巻だからこそ、もっと丁寧に世界観を描いてほしかったというのが個人的な感想ですが、以上の件さえどうでもよくなるほど、気に入らないことが一つだけあります。

本(紙媒体の書籍)を読むことが、感心な行為とみなされていることです。

本を読むことを称賛する人がいる一方で、本を読むことを嫌う人間がいる、わざわざ紙なんて使わずに電子書籍で読めばいいじゃないと言う人がいる。こちらはまあいいでしょう。不思議な物価変動で電子端末のほうが本よりも安価になったのでしょう。それゆえに、本を読むことは贅沢であり、世界が切羽詰まってる中で贅沢している奴が許せないというなら、それもまだ分かります

しかし、決して書籍がなくなったわけではないこの世界。紙が電子に変わっただけなのに、本を読むことが称賛されるとはこれは一体どういうことなのか。旅の途中に出会ったおばあさんが本を読むワルツさんに言った一言

「お若いのに感心なことね」

これが非常に気になります。

自分は読書が好きなのは、単にフィクションが好きだからです。そこには、現実離れしたような話がたくさんあり、多くの追体験をさせてくれます。これは本であっても、電子書籍であっても変わりません。

本作は、本の内容には触れることなく、形にこだわる作品です。「すべての書物へのラブソング」と本書の帯は煽っていますが、これは紙媒体の書籍限定のラブソングであることが、本作を読めばわかると思います。病的なまでの本好き。作中でも“書痴”なる言葉で表現されていましたが、本であることが重要なんです。

それはそれでよかったんです。形があることは重要です。作中のやり取りでも

「魂がこもっているのはデータだと思うんだよ。それは知識であり、言葉であり、感情であり、数値であり、事実である。なにも無理に、本の形にしなくたっていいんじゃないかな」

そう問うた『先生』に対するワルツさんの答えが

「魂だけじゃ、抱きしめられませんから」


とのもので、少しキュンときました。けれど、外見が中身にまで影響を及ぼしてはならないと思うんです。電子書籍で読むことが一般化した世界において、本で読むことを称賛する価値観とは、どういうものなのか。紙に書かれたものだから偉いわけではないはずです。作品はその中身にて評価されうるべきだと思うんです。少なくとも、本の形をしているだけで称賛されるなど、わけが分かりませんです。

自分にはあのおばあさんのセリフに共感できない。それゆえに、作中でもっとも気に入らないセリフです。

辛口な感想になってしまいましたが、紅玉さんが書きたかったことはしっかりと伝わってくる作品だったと思います。ただ、如何せん色々と雑というか、説得力に欠けるんですよね。紅玉さんの想いは伝わってくるのに、キャラクターの想いが分からないんです。何か似たようなことを以前にも書いたような気がしますが、キャラに自分の言葉を言わせているだけにしか見えないんです。

非常に紅玉さんらしい作品で、だからこそ本作は、紅玉さんが書きたかったことを書くためにこの世界を用意したんだろうなと想像してしまいます。読んでる時の気分は、『ようこそ古城ホテルへシリーズ』と同種のものがありますね。書きたいことを書こうとするあまり、そのために必要な設定がおざなりになっている感じがして、想いだけで小説を書いているような、そんな風に思えます。

もっと練って作品を書いてほしいなと、最近の作品に関しては思うところです。



ちなみにこの本自分の住んでいる近くの本屋をしらみつぶしに探したのに、どこにも売ってなくて、結局ネットで買いました。知名度はやっぱりそんなものね。。


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講談社
紅玉 いづき

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